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富山地方裁判所 昭和63年(ワ)110号 判決 1990年8月07日

主文

一、昭和六三年(ワ)第一一〇号事件原告の請求を棄却する。

二、昭和六三年(ワ)第一一一号事件被告は同事件原告に対し別紙物件目録一、二記載の土地について昭和三二年九月三〇日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三、昭和六三年(ワ)第一一一号事件被告は同事件原告に対し別紙物件目録一記載の土地を明渡せ。

四、訴訟費用は昭和六三年(ワ)第一一〇号事件原告・昭和六三年(ワ)第一一一号事件被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

一、昭和六三年(ワ)第一一〇号事件について

1. 原告

(一)  被告は別紙物件目録一記載の土地について富山地方法務局滑川出張所昭和三七年一月二五日受付第二二九号の所有権移転仮登記の抹消登記手続をせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

2. 被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、昭和六三年(ワ)第一一一号事件について

1. 原告

(一)  主文第二項同旨

(二)  主文第三項同旨

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  (二)について仮執行宣言

2. 被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

第二、当事者の主張

当事者の呼称について、以下第一一〇号事件原告・第一一一号事件被告新村仁一を「原告」と表示し、第一一〇号事件被告・第一一一号事件原告滑川市を「被告」と表示することにする。

一、昭和六三年(ワ)第一一〇号事件について

1. 請求原因

(一)  別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地一」という。)は、もと原告の父新村甚吾が所有していたが、昭和四六年五月二四日原告が相続し、富山地方法務局滑川出張所昭和六二年五月二八日受付第二〇九六号をもって所有権移転登記手続をした。

(二)  被告は、本件土地一について、同法務局同出張所昭和三七年一月二五日受付第二二九号をもってなされた昭和三二年一二月二四日停止条件付売買予約(農地法第五条の規定による富山県知事の許可の日を以て所有権を移転する)を原因とする所有権移転仮登記を有している。

(三)  よって、原告は被告に対し右仮登記の抹消登記手続を求める。

2. 請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)のうち、新村甚吾がもと本件土地一を所有していたこと、原告が同人の相続人であること、原告主張の仮登記がなされていることは認めるがその余は否認する。

(二)  同(二)の事実は認める。

3. 被告の主張

被告は、昭和三二年九月三〇日、原告の父新村甚吾から滑川市下島五一番二田八畝、五四番二田八畝、五五番二田八畝の各土地を代金二一七万九八〇〇円で買い受けた。

そのうち、五四番二田八畝から昭和三九年六月一〇日五四番三宅地三七〇・二四平方メートルが、同年七月一五日五四番四公衆用道路一五八平方メートルが分筆され、その余が別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地一」という。)である。

4. 被告の主張に対する認否

被告が本件土地一を買い受けたことは否認する。

5. 原告の主張

被告は、本件土地一について昭和三三年一月一日から現在に至るまで固定資産税を徴収し、新村甚吾及び原告の所有権を認めてきたから、この土地について被告が所有権を主張することは、信義則に反し許されない。

二、昭和六三年(ワ)第一一一号事件について

1. 請求原因

(一)  被告は、第一一〇号事件における被告の主張のとおり新村甚吾から土地を買い受けた。

そのうち、五一番二田八畝から昭和三九年七月一五日五一番三公衆用道路一五八平方メートルが分筆され、その余が本件土地二である。

右売買の際、被告は新村甚吾との間で、被告が買い受けた土地は被告において使用する必要が生じるまでは新村甚吾が無償で使用することができ、被告に使用の必要が生じたときは被告の請求あり次第被告に明渡し、所有権移転登記手続をし、被告の権利を保全するために仮登記をする旨の特約をした。

(二)  新村甚吾は、昭和四六年五月二四日死亡し、原告が本件土地一、二について富山地方法務局滑川出張所昭和六二年五月二八日受付第二〇九六号をもって相続を原因とする所有権移転登記手続をした。

(三)  被告は、本件土地二に学校給食共同調理場を建築して使用しているが、所有権移転登記手続はなされていない。

(四)  被告は、本件土地一を使用する必要が生じたので、昭和六二年六月二九日原告に対しその明渡し及び所有権移転登記手続を請求した。

2. 請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)のうち、被告が本件土地二を買い受けたこと、特約をしたことは否認する。

(二)  同二、三は認め、同四は否定する。

3. 原告の主張

被告は、昭和三三年一月一日から、本件土地一については現在に至るまで、本件土地二については昭和五六年一二月三一日まで固定資産税を徴収し、新村甚吾及び原告の所有権を認めてきたから、これらの土地について被告が所有権を主張し、所有権移転登記手続等を求めることは、信義則に反し許されない。

第三、証拠〈略〉

理由

第一、まず第一一一号事件について判断する。

一、本件土地一、二がもと新村甚吾の所有地であったこと、新村甚吾は昭和四六年五月二四日死亡したこと、原告が同人を相続したこと、本件土地一、二につき原告が昭和六二年五月二八日相続を原因とする所有権移転登記手続をしたこと、原告が本件土地一を占有していることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉並びに本件弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1. 新村甚吾は、もと滑川市下島五一番田一反五畝二七歩(以下、同所の土地については地番のみで表示する。)、五四番田一反五畝二七歩、五五番田一反五畝二三歩等を所有していたが、昭和三二年二月ころ右各土地のうちそれぞれ七畝二七歩宛を、被告の求めに応じ滑川中学校の用地として売渡した。なお、買収価格は一坪当たり一三〇〇円であった。これらの土地は被買収土地がそれぞれ各番の一に分筆され、残りの土地が各番の二の土地となった(以下、この二の土地を「分筆前の各番二」という。)。

2. その後、被告は右残りの土地も買い受けることとし、昭和三二年九月三〇日代金二一七万九八〇〇円でこれを買い受け、代金は分割して昭和三三年五月三〇日までに新村甚吾に対し支払われた(以下、この買い受けを「残地買収」という。)。

3. 右学校用地の買収、残地買収には多くの権利者などが関与したが、新村甚吾は、町内会長などと共に、被告との交渉に当たるなど売渡し側の中心的役割を果たした。

4. 被告は、残地買収によって取得した土地を将来公共用地として使用するほか、代替用地にする予定であって、さしあたって使用する必要がないため買収後も売渡し人にそのまま使用を許し、被告が必要とするときに明渡し、所有権移転登記手続をすることとし、仮登記によって被告の権利を保全するにとどめた。

5. そして、分筆前の五一番二から昭和三九年七月一五日一五八平方メートルから被告所有の公衆用道路として同番三に、分筆前の五四番二から昭和三九年六月一〇日三七〇・二四平方メートルが囲年太郎所有の宅地として同番三に、同年七月一五日一五八平方メートルが被告所有の公衆用道路として同番四に、分筆前の五五番二から昭和三七年六月五日三三〇・五七平方メートルが上野太一所有の宅地として同番三に、昭和三九年七月一五日一五八平方メートルが被告所有の公衆用道路として同番四にそれぞれ分筆されており、分筆後の同番二の三〇〇・八二平方メートルは、昭和四四年九月四日被告への所有権移転登記を経て宅地として田中隆一に所有権移転登記手続がなされている。

なお、被告以外の右土地取得者は、被告から代替地として所有するに至ったものである。

6. 被告は、本件土地一を使用する必要が生じ、本件土地二を学校給食共用調理場として現に使用している。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

これらの事実によると、本件土地一、二は残地買収によって被告が新村甚吾から買い受け、所有権を取得したものということができ、土地の明渡し等について被告主張の約定がなされたものと推認できる。

二、原告は、新村甚吾は学校用地にするということで被告の買収に応じたが、それ以外に土地を売り渡すことはなく、契約書もないから残地買収に応じたことはないとして被告の本件土地一、二の所有権取得を争い、証人柴田勝則はこれに副う供述をする。しかし、前記認定の事実によると、分筆前の五一番二、五四番二、五五番二から被告の必要の都度地目を変更して分筆され、被告の指定するものなどに所有権移転登記手続がなされているが、これらの手続きは印鑑登録証明書や委任状を交付するなど新村甚吾の協力なしには不可能と思われる上、学校用地買収などに際し被告との交渉にも当たった同人が、残地が処分されることに無関心であったとは到底考えられないところであり、右柴田証人の供述は信用することができない。

三、そうすると、分筆前の五一番二に含まれていた本件土地一、分筆前の五四番二に含まれていた本件土地二は、いずれも被告が所有権を取得しているものといえるから、被告は、原告に対し本件土地一、二の所有権移転登記手続及び本件土地一の明渡しを求めることができるというべきである。

四、原告は、被告の請求が信義則に反すると主張するが、前記認定の事実関係からすると、原告らが固定資産税を負担していたことをもって被告の請求が信義則に反するものということはできないから、原告の主張は理由がない。

第二、次に、第一一〇号事件について判断する。

本件土地一がもと新村甚吾の所有地であったこと、本件土地一に被告の仮登記がなされていることは当事者間に争いがない。しかし、第一一一号事件について判断したとおり、被告は本件土地一の所有権を取得し、それが信義則に反することはないから原告の請求が理由のないことは明らかである。

第三、結び

以上の次第で、原告の第一一〇号事件における請求は理由がないものとして棄却し、被告の第一一一号事件における請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないから却下することとして主文のとおり判決する。

物件目録

一、滑川市下島五四番二

田 二五七平方メートル

二、滑川市下島五一番二

田(現況宅地) 六三一平方メートル

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